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ワンダーランド
パズル遊びへの招待・オンライン版

1−4.知恵の輪(チャイニーズリング)



[1]4連のチャイニーズリング

 チャイニーズ・リングと呼ばれる知恵の輪がある。これは[1]のように、細長い板Bに柄のついた環Cが数個(通常4から9個)はめこまれていて、これにAのようなさおが通っている。このAを取り外すパズルである。用具は飛騨の高山で民芸品として売られたほか、時折り輸入品が市販されている。
 中国には、古くから輪が九個のものがあり、九連環と呼ばれていた。材質は鉄か銅であったが、そのもとのものに石で作られた知恵の輪があった。中国の古い歴史の本『戦国策』の中に出てくる玉連環がそれだと言われている。話はこうである。

 戦国時代(紀元前403 〜 221)のことである。大国秦の昭王の使者が斉にやってきた。当時、斉では襄王が亡くなって、その后の君王后が政治を行っていた。使者は君王后に玉連環を献上してこう言った。
「斉には知恵者が多いと聞きました。ぜひこの環をはずしてみて下さい。」
 君王后は家臣の者に玉連環を渡したが、だれもはずすことができなかった。すると后は槌を取り寄せると、玉連環を打ち壊し、秦の使者にこう言った。
「謹んではずしましたよ」


[2]知恵の輪の紋

 九連環は、17世紀後半には、日本でもよく知られたパズルになっている。結構人気のあったことは、紋章に知恵の輪の紋[2]まであることでも知られよう。
 大数学者で、関孝和に対抗して最上流という一派を立てた会田安明は、数え年九歳(1755)のとき、人から九連環をもらった。父親に見せると、昔やったことがあると言って、三つ四つ輪をはずしたが、それ以上はできなかった。これだけはずせるのなら、理詰めで全部はずせるはずだと安明が言うと、父親はでは考えてみなさいと言った。それから安明は一晩寝ないで考え、とうとう知恵の輪の原理を解明した。彼はこれで自信を得て、数学の道へ進む決心をする。
 偉人のエピソードというものは後年の創作が多いが、この話は安明自身自叙伝の冒頭に書いているので、信用してよい。

 西洋では、イタリアのカルダーノが1550年に書いた本の中で論じているから、相当古くからあることがわかるが、中国との関係はよくわからない。その後イギリスのJ.ウオーリスも論じている。注目すべきは、1872年にフランスのL.グロが二進法を利用してこの問題を巧みに解明したことである。
 チャイニーズ・リングを少しいじってみると分かるが、[1]の図で、一番右端の環は自由にはずせる。また二番目の環もはずすことができる。しかし、3番目から先は簡単にはいかない。一般にn番目の環は、(n−2)番目の環までは全部はずれていて、(n−1)番目の環がはまっているときに限ってはずすことができる。

 ここでL.グロのやり方を簡単に説明しよう。まず横線を一本引いて、竿にはまっている環はその上部に、はずれている環はその下部に○印で表すことにする。この記載法で4連のものをはずす手順を図に示すと、[3]の中央のようになる。なお、一番端の、自由にはずせる環のある方を右に置いている。 ところで、

  1. 横線より上にある○には、左から
    1、0、1、0、・・・と、交互に1と0をつける。
  2. 横線より下にある○には、それより左側にはまっている環がなければ全部0、あればそれと同じ数字をつける。

という約束にすると、今の4連のものを解く過程は、[3]の右側のような二進法の数で表せることになる。
 この図でもわかるように、環を一個はずしたりはめたのする度に、この二進数が必ず増減する。したがって4連のものだと、全部はまっているときの1010から、全部はずれたときの0000にするには、その差だけの手数が必要になる。1010は十進数に直すと、

8 + 0 + 2 + 0 = 10

で10になる。0000は0であるから、けっきょく4連のものをはずすのに要する手数は10手ということになる。


[3]4連のもののはずす手順

 また、1010から順に1ずつ減らしていって、それをチャイニーズ・リングの配置に翻訳すれば、環をはずす手順を知ることができる。これにはちょっとしたコツが要るが、二進数を最高位から見ていって、

  1. 最初に0が1個以上あれば、その個数だけはずれた環がある。
  2. 最初に出てくる1は、必ずはまった環を示す。
  3. 同じ数字が2個以上続く場合は、2個目から先は、はずれた環を示す。

といったことに注意すれば間違えずに翻訳できると思う。
 n個の環をはずすのに要する最少手数は、したがって環が奇数の場合は(2n+1 − 1)/3手、偶数の場合は(2n+1 − 2)/3手である。
 環の個数が4のものは10手だが、9連のもの(九連環)では341手、20連のものは699050となる。著者の持っている最大のものは36連である。これだとどうなるだろうか?

 このコーナーは、高木茂男氏の著書「パズル遊びへの招待」(発行:PHP研究所・1994年)の内容に著者自身が加筆・修正を加えたものを、著者本人及び出版元の許諾により掲載しているものです。
 他サイトへの無断転載はご遠慮ください。

●第1部・歴史的なパズル●

  1. 迷路
  2. リンド・パピルスのパズル(からす算)
  3. 魔方陣
  4. 知恵の輪(チャイニーズリング)
  5. ヨセフスの問題とまま子立て
  6. 渡船問題(川渡りの問題)
  7. 油分け算
  8. 盗人隠し
  9. さっさ立て
  10. 薬師算
  11. 碁石拾い
  12. おしどりの遊びと入れ替え問題
  13. 一小刀問題
  14. ねずみ算とフィボナッチ数列
  15. 知恵の板
  16. 虫食い算
  17. 目付け字と数当てカード
  18. 橋渡り問題と一筆書き
  19. ソリテア
  20. ハノイの塔
  21. デュードニー
  22. サム・ロイド
  23. 移動板パズル
  24. 図形消滅パズル
  25. パラドックス
  26. 四色問題
  27. チェスのパズル
  28. にせ金の問題

●第2部・言葉と絵のパズル●

  1. 回文
  2. アナグラム
  3. 折り句
  4. 暗号
  5. ダブレット(変形パズル)
  6. クロスワードパズル
  7. サーチワード、クリスクロス
  8. スクラブル
  9. 漢字作りパズル
  10. 単語作りパズル
  11. 判じ物と判じ絵
  12. 絵暦
  13. 新しい単語パズルの作り方
  14. 電卓文字遊び
  15. いろいろな文字遊び
  16. 絵当てパズル
  17. かくし絵
  18. さかさ絵
  19. その他の絵のパズル

●第3部・パズルの展開●

  1. ポリオミノ
  2. 立体パズル
  3. ブラックボックス
  4. 裏表パズル
  5. ザイルトリック
  6. 絵合わせパズル
  7. 切り継ぎパズル
  8. お菓子の分配
  9. クロスワードパズルの数字版
  10. 電卓数字パズル
  11. 覆面算
  12. 年賀用パズル
  13. コインのパラドックス
  14. マスターマインド
  15. パソコン・パズル
  16. 速算ダイス
  17. インスタント・インサニティ
  18. グラスパズル
  19. 匹見木のパズル

●パズルの考え方・解き方●

  1. パズルの考え方・解き方 (1)
  2. パズルの考え方・解き方 (2)
  3. 参考文献

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